厭世館へようこそ。

ここは厭世館。ぼくのすむところ。

*戀人 「喫茶店にて。」

 

 

 

とある喫茶店。僕はアイスコーヒーにガムシロップを注ぎながら、向かいに座る男の目をのぞき込んだ。

 

「君は、僕なんかより、彼女の方が好きなんですよね。だから、僕との関係を隠して、彼女の元へ、通っていたんですよね。」

 

今まで聞きたかったことを、ぶつけてみる。
彼は目を丸くして、僕の方を見た。

 

「何を言ってるんだお前は。」

 

アイスコーヒーをかき混ぜる手を止めて、今度は真っ直ぐに彼を見つめる。

 

「僕が先に質問をしたんですよ。」

 

「何でそう思うんだよ、二人で出掛けたり、お前をうちに呼んだり、何だかんだで最近ずっと一緒にいるだろ。」

 

「最近は、です。」

 

僕は知っている。彼が、僕と付き合いながら、女のところに通っていたことを。

 

「じゃあ前は違ったのかよ。」

 

彼が少し強い語調になった。苛立っているのが、テーブルを伝って、伝わってくる。

 

「前は、どうだったんだよ。」

 

彼は合理主義者だ。こういう、無駄な時間は、特に嫌う。これから彼に嫌われるような話をしようとしているのに、ますます嫌われるようなことをしている僕は、本当に素直ではない。

 

「僕は知っています。君が、あの女性に会いに行っていたこと。」

 

「あの女性って誰だよ。」

 

「僕にあの名前を言わせないでくださいよ。」

 

彼が大きくため息をつき、椅子に深くもたれかかった。かなり苛立っている。

 

「……で?」

 

「君は僕と付き合いながら、彼女の家へ足繁く通っていましたね。君の仕事が終わったあとに、二人で、何度も。」

 

コーヒーを一口口に含み、息を整える。

 

「俺が、女の家に通ってた?」

 

「それも、泊まりで……。」

 

ここまで言ってから、僕が考えていた最悪のケースが頭をよぎって、口篭る。

 

「あれは、だな、」

 

「いいんです、しかたありませんよ。僕らってほら、世間から見たらおかしいじゃないですか。やっぱり、隠していくべきだっていうのは、わかります。けれど、」

 

焦っているのか、怖いのか、呂律が回らない。震える手でグラスを持って、ストローを口へ運ぶ。時間が永遠に感じられて、やはり知らないふりをしていればよかったと、後悔した。

 

「け、けれど、女性と付き合いたいなら、僕なんか、要らないじゃないですか。」

 

ああ、言ってしまった。言わないと決めていたのに。ちゃんと彼と話をするつもりできたんだ、これじゃあ僕が一方的に、ぶつけているだけだ。お願いだから、‘そうだな’ なんて、言わないで欲しい。自分から煽っておいて我侭だけれど、僕は、‘そうじゃない’ って言って欲しいだけなんだ。